

2026年09月26日
ワキガ(腋臭症)の治療には、制汗剤、外用薬、ボツリヌストキシン、マイクロ波などの機器治療、吸引・シェービング系治療、外科的な剪除法などがあります。治療名だけを比較するのではなく、「何を改善する治療なのか」「アポクリン腺にどのように作用するのか」「どこまでの範囲を治療するのか」「効果と身体への負担をどう考えるのか」を理解したうえで選択することが大切です。
本ページでは、公的資料・医学論文で確認できる内容と、当院が長年の直視下剪除法で得てきた臨床経験を区別しながら、ワキガ治療をできるだけ分かりやすく整理します。
1.ワキガ(腋臭症)とは?
ワキガは医学的には腋臭症と呼ばれます。ワキには主にアポクリン汗腺とエクリン汗腺があり、ワキガ特有の臭いにはアポクリン汗腺が深く関係します。アポクリン汗腺の分泌物が皮膚表面で細菌などの作用を受けることで、特徴的な臭いが生じます。
ワキガ(腋臭症)の主な問題は臭い、原発性腋窩多汗症の主な問題は汗の量です。両方を併せ持つ方もいますが、治療を選ぶときには「臭いを改善したいのか」「汗を減らしたいのか」を分けて考える必要があります。
湿った耳垢、家族歴、思春期以降に気になり始めた臭い、衣服への臭いの付着などは参考になります。ただし、これらだけで確定診断ができるわけではありません。特に他院治療後の再手術では、本人が気にしている臭いが残存したワキガ臭なのか、別の体臭なのかを確認することが重要です。
治療法 | 主な目的 | アポクリン腺を直接確認 | 切開 | 特徴 |
制汗剤・デオドラント | 臭い・汗を抑える | × | なし | 使用中のコントロール |
多汗症外用薬 | 汗を減らす | × | なし | 主に多汗症治療 |
ボツリヌストキシン | 汗を減らす | × | なし | 効果には持続期間がある |
マイクロ波治療 | 汗腺に熱作用 | × | 原則なし | ミラドライの日本の承認目的は原発性腋窩多汗症 |
吸引・シェービング系 | 汗腺組織を処理 | × | 小切開 | 処理範囲・程度で結果が変わり得る |
直視下剪除法 | アポクリン腺を直接処理 | ○ | あり | 皮膚を反転し、目で確認しながら処理 |
ミラドライ(miraDry)は、皮膚の上からマイクロ波を照射し、腋窩の組織を加熱する治療です。日本では承認を受けた医療機器ですが、承認されている使用目的は重度の原発性腋窩多汗症の治療であり、ワキガ(腋臭症)は承認適応ではありません。
承認審査では、腋臭症患者40人を対象としたCP-0012試験も検討されました。片側腋窩をマイクロ波で治療し、反対側を無治療として臭気を比較した試験です。治療側の臭気スコアが無治療側より2点以上低かった患者の割合は、1か月後66%、3か月後39%、6か月後36%でした。
ここでいう66%は「66%の患者でワキガが治った」という意味ではありません。あくまで、設定された評価方法で治療側と無治療側に2点以上の差があった患者の割合です。
2018年5月11日の厚生労働省・薬事食品衛生審議会 医療機器・体外診断薬部会では、臭いに関する臨床試験があらかじめ設定された達成基準を満たさなかったことなどが議論され、審査上は臭いの低減効果を認めない整理となりました。部会では、適応が原発性腋窩多汗症であり、腋臭症は適応外であることも確認されています。
一方で、マイクロ波治療で臭いが軽減する患者がいることまで否定されているわけではありません。2022年には、中等度から重度の腋臭症または多汗症患者10人を2年間追跡し、臭い・発汗の改善と、組織学的にアポクリン腺数の減少などを報告した研究もあります。ただし10例の小規模研究で、無治療対照群はありません。
155人を対象とした単施設の後ろ向き研究では、マイクロ波治療と皮下掻爬術を比較し、3年後の有効な改善は皮下掻爬術90%、マイクロ波治療23%、報告された再発率はそれぞれ21%、39%でした。ただし、これはランダム化比較試験ではなく、外科治療も当院の直視下剪除法そのものではありません。
したがって、この研究結果をそのまま「剪除法90%、ミラドライ23%」と読み替えることはできません。
切開を伴わない治療には、傷跡を避けやすいという大きな利点があります。一方、外科治療には傷跡、血腫、感染、皮膚障害、色素沈着、瘢痕などのリスクがあります。治療を選ぶ際は、傷の少なさだけでも、臭いの改善だけでもなく、期待できる効果、侵襲、合併症、ダウンタイム、再治療の可能性を含めて考える必要があります。
外科治療では、皮膚を切開して反転し、皮膚の裏側にあるアポクリン腺を直接確認しながら除去する方法があります。206例を対象とした報告では、平均18.1か月の追跡で97%が臭気除去について良好な結果と評価されました。ただし、この成績は一つの術式・施設の報告であり、すべての剪除法にそのまま当てはまる数字ではありません。
また、40研究をまとめた2017年のシステマティックレビュー・メタ解析では、再発率は外科治療3.0%、脂肪吸引5.5%、レーザー8.2%と報告されました。ただし複数の外科術式をまとめた解析であり、「剪除法を行えば再発率が3%」という意味ではありません。
当院では、同じ「剪除法」という名称でも、治療範囲、アポクリン腺の処理の程度、皮膚の固定方法、術後管理によって結果は変わり得ると考えています。現行の当院ホームページでも、剪除法であれば自動的に十分な結果になるのではなく、アポクリン腺を丁寧に確認しながら処理することを重視しています。
そのため当院の手術は短時間で終えることを目的としていません。現在の案内では施術時間を約150~300分としており、アポクリン腺の処理だけでなく、術後に皮膚をできるだけ良好に治すための工程にも時間をかけています。
また傷跡をよりきれいに治すため手術後2年間は無料で検診を行っています。
当院で皮膚を反転し、アポクリン腺を直接確認しながら手術していると、アポクリン腺がワキ毛の範囲を越えて広がっているケースを多く経験します。ワキ毛の範囲、あるいはそれより少し広い範囲だけを治療範囲として設定した場合、実際のアポクリン腺分布がさらに広ければ、治療範囲外に腺が残る可能性があります。
当院では術前マーキングを絶対的な境界とはせず、術中に実際のアポクリン腺分布を確認し、必要に応じて追加麻酔を行い、剥離・剪除範囲を広げます。

図:青=ワキ毛の範囲、緑=一般的に設定されがちな治療範囲、赤=実際に確認されるアポクリン腺の範囲。副乳がある場合は、その部位を含むよう局所的に手術範囲を拡張する考え方を示しています。
9.副乳がある場合
ワキの近くに副乳がある患者さんでは、当院の手術経験上、その周辺にもアポクリン腺を認めることがあります。副乳は必ずしも乳房のような膨らみを伴うものではなく、皮膚表面にごく小さな乳頭様の隆起として見える場合があります。術中にその周囲までアポクリン腺が分布していることを確認した場合、通常の手術範囲からその部分だけを局所的に外側へ広げ、必要な範囲を処理します。
他院治療後に「最初は臭いが減ったが、しばらくしてまた臭うようになった」と相談されることがあります。当院の再手術経験では、一度除去されたアポクリン腺が新たに大量に再生したというより、治療範囲内に十分処理されなかったアポクリン腺が残っている、または治療範囲そのものが狭く範囲外にアポクリン腺が残っている、という残存・取り残しが原因だと考えています。
他院治療後に一時的に臭いが軽減した後、再び気になるようになるケースについて、当院では、治療による組織への影響で残存アポクリン腺の機能が一時的に低下し、その後の組織回復に伴って機能が戻っている可能性が高いと考えています。
要はアポクリン腺の取り残しがあるのです。一時的はアポクリン腺の機能低下については当院の臨床的観察からの仮説であり、確立した医学的機序として記載するものではありません。
アポクリン腺を十分に剪除した後の皮膚は、下床の組織と良好に接触して治癒していく必要があります。当院では、皮膚と皮下組織のずれや死腔をできるだけ減らすため、アンカー縫合を細かく多数行います。
また、多数のアンカー縫合による小さな針穴が微細な排液路として働き、血液や浸出液の貯留を減らす方向に働くのではないかと経験的に考えています。この点は当院の術式上の考え方であり、一般化された医学的事実とは区別して説明します。
当院では現在の剪除法で原則として大きなドレーンを留置していません。長年の経験から、ドレーンが皮膚と皮下組織の間に介在することで周囲に隙間が生じたり、状況によっては密着を妨げたりする可能性を考えているためです。大きなドレーンで排液するより、アンカー縫合で死腔そのものをできるだけ作らず、皮膚と皮下組織を密着させる方法を選択しています。
当院のワキガ手術で重視しているのは、「しっかり取ること」と「しっかり治すこと」の両方です。
実際のアポクリン腺分布を確認して必要な範囲を処理するだけでなく、剪除後の皮膚を下床に密着させ、血腫やずれを防ぎ、術後の安静を保って治癒を助けるところまでを一つの手術として考えています。
現在の当院案内では、カウンセリング・手術・固定除去・抜糸で最低4回の来院が必要としています。手術時間は範囲や再手術かどうかなどで異なりますが、約150~300分を目安としています。
傷の経過によってはその後にも通院が必要になることがあります。
傷跡をよりきれいに治すため手術後2年間は無料での検診・治療を行っています。
15.なぜ術後の安静が重要なのか
術後早期は、剥離した皮膚が下床に再び生着していく重要な期間です。腕を大きく動かして皮膚にずれが生じると、出血、血腫、皮膚の生着不良などにつながる可能性があります。そのため当院では術後安静を重視しています。
剪除法は切開手術であり、傷がまったく残らない治療ではありません。色素沈着、赤み、硬さ、つっぱり、凹凸、肥厚性瘢痕・ケロイド、血腫、感染、創離開、皮膚の生着不良などが起こる可能性があります。効果だけでなく、こうした外科手術特有の負担を理解したうえで治療を選ぶ必要があります。
当院には遠方から来院される方も多くおられます。通常の経過で、抜糸後に通院が難しい場合には、写真を送っていただき経過を確認し、必要な指示を行うことがあります。ただし、傷の状態によっては予定外の直接診察が必要になる場合があります。また、診断・説明・術後制限を十分理解していただく必要があるため、基本的にはカウンセリング当日の手術はおすすめしていません。
どうしてもカウンセリングと手術を同日に行いたいという場合はメールや電話等で事前確認を行ったのちカウンセリング当日の手術を行うケースもなかにはあります。
機器治療、吸引・シェービング系治療、剪除法などの後にも臭いが気になるとして相談される方がいます。再手術では瘢痕や癒着、既存の傷、血流などの条件が初回手術とは異なります。また、まず現在感じている臭いが残存したワキガ臭なのかを確認することが重要です。
当院では他院手術後の再発のケースも多数の治療経験があります。
年齢だけで一律に手術の可否を決めるものではありません。ワキガであることは確かなのか、本人の理解が得られるのか、局所麻酔や手術を受けられるか、術後の安静を守れるか、保護者が術後管理を理解しているかなどを総合的に判断します。
Q.汗が多いとワキガですか?
いいえ。多汗症とワキガは別の状態ですが、両方を併せ持つ方もいます。
Q.耳垢が湿っていれば必ずワキガですか?
診断の手掛かりにはなりますが、それだけで確定はできません。
Q.ミラドライはワキガの承認治療ですか?
日本で承認されている使用目的は重度の原発性腋窩多汗症です。腋臭症は承認適応ではありません。
Q.剪除法ならどこで受けても同じですか?
同じ名称でも、治療範囲、処理の程度、固定方法、術後管理などは異なり得ます。
ドクターによっても治療内容は異なります。
当院は2005年10月に広島で開院以来ワンドクターで手術を行っています。
Q.手術すれば汗は完全に出なくなりますか?
汗を完全にゼロにすることを目的とした手術ではありません。
Q.他院治療後でも再手術できますか?
診察のうえで判断します。臭いの種類、過去の治療範囲、瘢痕や皮膚状態などを確認します。
Q.遠方からでも受けられますか?
可能ですが、カウンセリング、手術、固定除去、抜糸など複数回の来院が基本です。
ワキガ治療では、「切るか切らないか」だけでなく、何を目的として、どこまでの範囲を、どのように処理するのかを考えることが重要です。ミラドライには切開を避けられる利点があり、臭気改善を示した研究もありますが、日本での承認目的は原発性腋窩多汗症です。一方、外科治療は傷やダウンタイムを伴いますが、アポクリン腺を直接確認しながら処理できるという特徴があります。
当院では、実際のアポクリン腺分布を直視下で確認し、必要に応じて治療範囲を調整すること、そして十分な剪除後に多数のアンカー縫合と術後安静によって皮膚をできるだけ良好に治癒させることを重視しています。
執筆・監修:さくら美容クリニック院長 棒谷智之
医師経歴
| 1983/04 | 大阪市立大学医学部入学 |
|---|---|
| 1989/03 | 大阪市立大学医学部卒業 |
| 1989/06 | 大阪市立大学医学部第2外科 |
| 1995/04 | 東九条病院 |
| 1997/04 | 城本クリニック(2005/10 城本クリニック広島院) |
| 2015/07 | さくら美容クリニック |
2026年9月26日
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